2013年 06月 08日
このところのスケジュールで疲れは出ていたのですが、今日行かないと何時行けるか分からないので乃木坂の新国立美術館へ赴きました。 クリュニー美術館(中世美術館)の至宝、「貴婦人と一角獣」を観に行くためです。 フランスにあるタピトリー(つづれ織り)の6枚からなる連作。 制作年や場所は不明ですが、パリで下絵が描かれ、15世紀末(1484年から1500年頃)のフランドルで織られたものとみられています。 タピスリー(フランス語ではTを発音しない)は英語ではタペストリーで、つづれ織りのことです。 僕は全くの門外漢。 しかし芸術文化に造詣が深く、ヨーロッパに仕事で足しげく通われた女性から「ぜひとも観るべきです」と勧められたことが鑑賞に至った理由です。 一般の情報では、タピスリーを観に行こうなどとは決して思いつきません。 文化を教えてくれる知人は貴重な存在です。 500年以上経過してる作品ですから、作られた当時とは変色しています。 しかし圧倒的な作品の質感の前に、長い時の隔たりは徐々に融解していきます。 織られたものが、絵画よりも実写のように中世ヨーロッパへ誘うというのは、まるで魔法の力に幻惑させられるような感があります。 せっかくなのでご紹介したいと思います。 一枚一枚は非常に大きく、盾も横も3メートル強から4メートル強もあります。 この大きさを想像しながらご覧ください。 6枚セットで、「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」。 これは人間の五感を表わしていますが、宗教的あるいは哲学的な思想に関連します。 そして残る一枚が「我が唯一の望み」。 この真意は未だに諸説があり、確定されていません。 このミステリーも、芸術作品の魅力を高めこそすれ、俗人的な興味に品位を落とすことは決してありません。 実物を観れば、その気品に気圧されるかのようだからです。 文章は新国立美術館の作成したものを使用しました。 触覚(tuch) 369X358 背すじを伸ばし堂々と立つ貴婦人が、右手で旗竿を持ちながら、左手で一角獣の角に軽く触れています。 動物が旗竿を支えていないのは、この画面だけです。 背景に描かれた猿もまた、自らの首輪の鎖に手を触れています。 味覚(taste) 377X466 6面のうち2番めに大きなタピスリーです。 貴婦人は侍女の捧げる器から右手でお菓子を取り、左手にとまるオウムに与えています。オウムはお菓子をついばみ、また前景にいる猿も、何かを口に入れようとしています。 嗅覚(smell) 318X322 貴婦人は、侍女が支える皿から花を選びながら、花冠を編んでいます。 ここにも猿は登場し、貴婦人の背後で花の香りをかいでいます。うつむいて花冠に眼をやる貴婦人は、物思いに沈んでいるようにも見えます。 聴覚(hearling) 312X333 もっとも縦に細長いタピスリー。 豪華な織物を掛けたテーブルの上に、小さなパイプオルガンがのっています。 貴婦人はオルガンを演奏し、侍女がふいごを操作しています。一角獣と獅子は、振り返ってオルガンの音に耳を傾けています。 視覚(sight) 312X330 草地の上に腰を下ろす貴婦人の膝に、一角獣が前脚をのせ、憩っています。貴婦人は、右手で鏡を支えながら、左手で一角獣のたてがみを撫でています。一角獣は、鏡に映る自らの姿に見入っています。 我が唯一の望み(Mon seul desir) 377X473 6面めの、もっとも大きなタピスリーは、「我が唯一の望み」と題されています。 これは、画面中央の背後に配された、青い大きな天幕の銘文から取られています。 この言葉は何を意味しているのでしょうか。 貴婦人は、侍女が捧げ持つ小箱から、宝石を選んで身につけようとしているようにも、また逆に箱に宝石を戻しているようにも、見えます。この最後の画面が何を意味しているかについては、様々に論じられてきました。 五感を統べる第六の感覚である、心、知性、精神であるとも言われますし、銘文からは、愛や結婚といった意味が導き出されています。 宝石が象徴するものに対する貴婦人の身振りも、どちらとも解釈することができます。最後に残された大きな謎。 それは、連作の魅力をいっそう高めているのではないでしょうか。 以上でご紹介が終わりましたが、興味のある方はぜひともご自分の目でご覧ください。 コノタピスリーの前に佇むと、不思議に心が安らぎ500年の時と東洋と西洋の距離感が一瞬消滅するかのような錯覚に陥ります。 フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展は新国立美術館(〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2)で7月15日(月・祝)まで開催。 火曜日は定休です。
by sunrisek6
| 2013-06-08 10:37
| 文化芸術
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