ケン岡本さんはベテランのドラマーです。氏の若い頃から憧憬のスタイルである、1950年代後半の黒人ジャズミュージシャンの作り上げたビバップを基調にする音楽に特化して演奏しています。チャーリー・パーカー等の新しい世代のジャズは、飽くまで一般の音楽ファンにとってダンスの伴奏だったり、ディナーのBGMであった音楽を一変させました。ダンスフロアーを無くし、着席して鑑賞するようになったわけです。世代によっては現在でもこの音楽に対しての反発は強く残り、古き良き時代のジャズへの回帰を主張する方がも大勢いらっしゃいます。50年代後半のジャズはハードバップとも呼ばれ、旋律を単純化して多くの人々に口ずさめるようにもなり、またブルーノートと呼ばれる、ブルースに根差した音階の変更を多用し、そのためにFunkyなジャズとの類型化を批評家からなされたのです。そしてジャズの歴史の中では、ジャズそのものの力だけで多くの愛好者を獲得しました。このバンドの名称であるFunky Jazz All-starsは、このことに由来します。

この流れはクラシック音楽のそれと共通する部分があります。バッハにより完成されたバロック音楽をバイバップに例えるなら、19世紀の半ばから主流となったロマン派の音楽はハードバップに当たるでしょう。決して進化したわけではなく、変化したのです。新しい音楽は古い音楽を進めたわけでは決してなく、新しい素材を対象に加えるために、ある要素を少なくするか或いは消さねばなりません、古い音楽家はそのことを、音楽そのものの衰退だと感じて、このことに警鐘を鳴らしますが、人の思想とは数百年経っても変わらないものなのでしょう。その中で何人かの音楽家は、新しい物の価値を見出すことができるし、また数割の音楽家は過去の遺産に最大の敬意を払いながら独自の音楽を模索します。
良い音楽家かそうでないかはこのことで決まり、ジャズ遊戯は空しさだけが空間に漂うのです。

さて今日の歌手は、おかのひろみさん。まだ新人で完成されていませんが、彼女は上記のジャズ的な考えに及ぶことができる数少ない新人です。それは彼女の深い歌声に表象されており、今後音楽のみならず人生における経験が歌唱に加味されるでしょう。今後を期待しています。