2015年 01月 10日
自己のフェイスブックより転載 【映画鑑賞】 久し振りの映画館での映画鑑賞。スウェーデンのジャズシンガー、モニカ・ゼタールンドの半生を映画化した「ストックホルムでワルツを」。 この映画の主題は娘としてのモニカ、母としてのモニカ、そして一人のシングルマザーとしての女としてのモニカということになるであろう。特に父親との深い確執は最後の場面まで凄絶に続く。そして自由奔放すぎる彼女の生き様は、観客の彼女への感情移入を易々とは許さない。これはスェーデンの作品であり、監督のペール・フライは単なるサクセスストーリーに堕することなく物語がハッピーエンドに終わるバランスを考えたのではないか。簡単に断ずることはできないが、ベルイマンという映画史に残る監督を輩出したスウェーデンの映画界の伝統を受けつでいるとも感じた。映画としては良くできている。全編がほとんどスウェーデン語で進行するのも耳に心地よい。もちろん字幕が無ければ殆ど理解できないのだが、言語は音楽的なサウンドを伴う。はっきりと意味を解しなくとも、役者の表情と字幕でその趣旨は音楽のように伝わってくる。日本においても英語で歌われるジャズヴォーカルにファンが多いのはこの理由による。多くのファンは歌手が何を歌っているのか聴き取る語学力は無い。しかし、というよりだからこそ音楽的な歌唱によって本質が抽象されるのだ。スタンダードの歌詞は英語で書かれると高尚なように錯覚している音楽通も多いが、芸術的な「詩」の格付けとしてはあくまで歌謡曲の域を超えない。ビリー・ホリデイはスタンダードを歌う時に、メロディーと歌詞を第一に尊重することはなかった。時には歌詞さえも変えたことは有名な事実で、当時の富裕層の白人の甘ったるい歌詞を歌うことが彼女の思想に受け入れられなかったからである。 ![]() さてここでやっとこの作品のジャズ的な部分に入る。未だにジャズに憧憬を持つ身として、映画館の音響システムでコンサート会場やライブハウスでの映像は訳もなく胸が高まる。主演女優はエッダ・マグナソンで、ジャズとして評価すれば大いに不満が残るが確かに歌は上手い。しかし多くの管楽器を使った演奏は実に見事であり、たまたま彼女のデビューバンドのリーダーがアルトサックス奏者であったために、多くの曲で大きくアルトがフィーチャーされていたが、このサウンドが頗る魅力的だ。たぶん白人の演奏だが、50年代のコピーに終わることなく活き活きとした音色に艶めかしいビート感。自分としてはこれだけでも映画館に足を運んだ甲斐があったというものである。そして実名で登場する当時のミュージシャン。トミー・フラナガン・トリオの面々はベースのダグ・ワトキンスにドラムスのデンジル・ベスト。そしてこのギグを整えたのが数少ないジャズを理解した批評家レナード・フェザー。彼も往年の写真同様のファッションで登場する。そしてエラ・フィッツジェラルドから完膚なきまでに叩きのめされるシーン。「あなたは自分の声で歌っていない。ビリーは自分の心の声で歌ったのよ」このような脚本が書けること自体、ジャズの本質を多少とも齧ったからであろう。最後は念願のビル・エバンスとの共演。特徴のあるオールバックのヘアスタイルにダークのジャケットで登場したビルとの共演曲は「ワルツ・フォー・デイビー」であった。邦題はここから取ったのだろうが、安直な感じは否めない。 大きな期待をすれば失望するかもしれないが、ジャズを愛する人間には観る価値がある。新宿武蔵野館、ヒューマン トラストシネマ有楽町などで上映中。111分。
by sunrisek6
| 2015-01-10 21:21
| 文化芸術
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