藍色の研究

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2015年 02月 25日

映画鑑賞


 台湾映画「KANO」を観てきた。これは日本統治時代の台湾にあった嘉義農林学校(かのう)野球部が台湾代表として甲子園で決勝戦まで勝ち残っていく実話を映画化したものである。部員は日本人、漢人(大陸から渡来した民族)、蕃人(台湾先住民族)の混成による。決して映画製作の技法が優れているとは言えないし、多くのサイドストーリーを盛り込み過ぎたことで上映時間が長い。しかしながら高校野球がその技量においてはプロ野球に及ばずとも、スポーツとしての本質が多くのファンを虜とすることと同様に「KANO」もまた私達の心に強く訴えるものがある。大上段に振りかぶった物言いはとかく批判の対象とされがちではあるが、真意を語れない世の中のどこが自由で文明的なのだろうか。

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 この作品は日本の企業がスポンサーになって製作したものではないし、日本政府の外交政策のひとつでもない。1995年の下関講和条約において日本は台湾を割譲した。無論台湾内に全く反対が無かった訳で無く、様々な抗日戦線も存在した。しかしそれにも関わらず、多くの台湾人は現在も当時の日本人に対して強い友愛と感謝の気持ちを持ち続けている。私の父は1917年に台湾の台南市で生れ、終戦の1945年まで9人の家族はこの地に住んだ。長男は南方戦線で帰らぬ人となり、父も中国戦線に従軍した。叔母たちから聞かされた話の中には、台湾人と日本人の間に強い友情が散見する。
 この作品はその意味で日本統治を美化してなどいない。これが歴史の事実であろう。台湾人自らが撮り、そして台湾国内で最高の評価を得ていることはその証左である。作品中に八田ダムを造った八田与一も登場する。いまだに台湾の英雄であり続ける八田と同じ血を受け継ぐ現代の日本人は、彼の偉業をどのように感じるであろう。
 歴史修正主義という言葉が横行しているが、この作品は修正では無い。これこそが台湾人の真実であり、映画というものは本質が抽象されている限り脚色は虚偽ではない。決勝戦に導いた松山市出身の近藤兵太郎監督の言葉が心に残る。「勝とうと思うな、何が何でも負けぬようにしろ。」これは音楽に携わるわが身にはこのように聞こえてくる。「良い演奏をしようと思うな。嘘の無い演奏をしろ。」
 馬志翔監督作品、永瀬正敏主演。180分。殆どが日本語で進行。新宿バルト9、こうのすシネマなどで上映中。

by sunrisek6 | 2015-02-25 17:01 | 文化芸術


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